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東京高等裁判所 平成11年(行コ)50号 判決 2000年3月30日

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が、控訴人に対し、平成五年五月一八日付けでした、平成元年三月二一日から平成二年三月二〇日までの課税期間に係る消費税の更正のうち、課税標準額二七六億八一九九万三〇〇〇円、納付すべき税額四二八四万一八〇〇円を超える部分を取り消す。

3  被控訴人が、控訴人に対し、平成五年五月一八日付けでした、平成二年三月二一日から平成三年三月二〇日までの課税期間に係る消費税の更正のうち、課税標準額三一二億三三〇四万九〇〇〇円、納付すべき税額四七一八万九一〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定のうち七五八万三〇〇〇円を超える部分を取り消す。

4  被控訴人が、控訴人に対し、平成五年五月一八日付けでした、平成三年三月二一日から平成四年三月二〇日までの課税期間に係る消費税の更正のうち、課税標準額三四〇億七九四九万六〇〇〇円、納付すべき税額八〇四八万五一〇〇円を超える部分及び無申告加算税賦課決定のうち九万四五〇〇円を超える部分を取り消す。

5  被控訴人が、控訴人に対し、平成八年五月一四日付けでした、平成四年三月二一日から平成五年三月二〇日までの課税期間に係る消費税の更正のうち、納付すべき税額六〇三〇万六一九七円を超える部分を取り消す。

6  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり補正、付加するほか原判決の「事実及び理由」欄の第二と同じであるから、これをここに引用する。

一  補正

1  原判決六頁三行目から同四行目にかけての「前記第一記載の」を「原判決別表一ないし三の各『審査請求』欄記載の課税標準額及び納付すべき税額並びに原判決別表四の『審査請求』欄記載の納付すべき税額についてその一部六〇三〇万六一七九円を超える」に改め、同六行目の「消費税法(」の次に「昭和六三年法律第一〇八号。」を、同七頁一行目の「税制改革法」の次に「(昭和六三年法律第一〇七号)」をそれぞれ加え、同九行目の「ものとしている(同条二項)。」を「ものとしている(同条二項)ほか、国税当局においては、昭和六四年(平成元年)九月三〇日までは、消費税になじみの薄い我が国の現状を踏まえ、その執行に当たり、広報、相談及び指導を中心として弾力的運営を行うものとするとしている(同法一七条二項)。」に、同九頁一行目の「法四五条一項」を「法四五条一項一号」に、同一二頁四行目の「被告の主張」を「後記三争点1の被控訴人(被告)の主張の(四)の(1)、(2)」に、同一八頁八行目の「商品名、」を「複数商品の名称と各」に、同一九頁七行目の「採用されていなかった。」を「採用されず、例えば東北本部売上げにおけるレシートの表示は、複数商品の名称と各売値及び売値の合計金額である受取金額のほか、受取金額に対する消費税額(一円未満を処理したもの)が表示されていた。」に、同二〇頁四行目の一〇〇分の三」を「一〇三分の三」にそれぞれ改め、同三五頁二行目から同三行目にかけての「仮払消費税戻し額」の次に「九万七七一〇円」を、同三九頁八行目から同九行目にかけての「仮払消費税戻し額」の次に「一〇万七四五四円」を、同四四頁八行目の「から」の次に「本件店舗外売上げ中の中古車二台の下取価額である固定資産売却収入八二八万三二〇四円に対する税率の過大適用に伴う」をそれぞれ加える。

2  原判決五四頁四行目末尾に「また、憲法八四条は、課税要件明確主義を定めている。これはアムビギュイティの法理ないし精神が明記されたものと解すべきである。法四五条一項及び規則二二条一項の課税要件は、明確性を欠き、課税要件明確主義ないしアムビギュイティの法理に反している。」を、同五五頁五行目末尾に「このようにして、明確性を欠く法四五条一項及び規則二二条一項の規定は、憲法の租税法律主義(課税要件明確主義)に反しており、控訴人のとった単品ごと積上計算方式は適法というべきである。」をそれぞれ加える。

3  原判決七九頁五行目の「法原理であって、」を「法理であるが、行政法、税法その他の法分野にも適用されている。その内容は、」に改め、同八〇頁四行目の次に行を変えて次のとおり加える。

「なお、このアムビギュイティの法理は、これを具体化するルールとして『法の不知(誤解)』と『慈悲ルール(曖昧性の原則)』がある。このうち『法の不知(誤解)』は法を知らなかったことによって自らの行為を合法と信じた行為者の責任は阻却されないという基本原則を前提とするものであるが、例えば<1>当該法令が複雑であり、又は<2>当該法例がいわゆる道徳に根ざさずにある行為を違法と規定している場合には、右基本原則の例外を認めている。また、『慈悲ルール(曖昧性の原則)』とは、法令の内容に曖昧さが残る場合は、その法令はこれを善意に誤解して行動した行為者に有利に解釈するというルールである。

右の『慈悲ルール(曖昧性の原則)』は、刑事罰や行政罰の適否を契機として展開されているものであり、これらのアムビギュイティの法理によれば、単品ごと積上計算方式をとった控訴人の信頼は保護されるべきであることは明らかである。」

二  本件賦課決定(二)、(三)についての当審における新たな主張

1  控訴人

法の施行に際して、日々大量の商品を販売しているスーパー業者等に戸惑いがあり、国税当局には、納税義務者に対する消費税の仕組みに関する周知義務があった。にもかかわず、国税当局はこれを尽くさず、また、東京国税局職員は、消費税導入後の平成二年三月に控訴人に対する税務調査を実施し、控訴人が単品ごと積上計算方式による税額算定をしていることを知りながら、長期間にわたって控訴人の税額算定方式を容認し、平成五年五月一八日に至って、過去に遡って本件各更正をした。その他、本件各更正につき、信義則違反のほか、アムビギュイティの法理違反があることは、前述のとおりである。したがって、控訴人が本件賦課決定(二)、(三)の基礎事実を本件申告(二)、(三)で申告しなかったことには、いずれも通則法六五条四項、六六条二項にいう「正当な事由」がある。

2  被控訴人

税務当局は、消費税の仕組みについての周知義務を十分に尽くし、何ら信義則に違反する事実もないから、控訴人の主張は失当である。

第三当裁判所の判断

一  消費税額の算定方法

1  総額計算方式について

消費税は、広範囲の課税対象を有し、累積課税を排除しつつ多段階の事業者を納税義務者とし、最終的には消費者に転嫁することが予定されている間接税である。その納税義務は、課税資産の譲渡等をした時に成立するが(通則法一五条二項七号)、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税には含まれず(同条三項)、その税額の確定については、申告納税方式によることとなる(通則法一六条一項一号)。したがって、消費税は、課税資産の譲渡等をした時にその譲渡等をした事業者に納税義務が成立するものの、一定の課税期間(法一九条)ごとに、その期間内に納税義務が発生した消費税につき確定申告を行うことによって、その納税額を確定するという方式が採用されている(法四五条一項)。

そして、課税期間とは、本来「国税に関する法律の規定により国税の課税標準の計算の基礎となる期間」であり(通則法二条九号)、消費税については法一九条一項が事業者の区分に応じてこれを規定し、法人については事業年度とされている(同項二号)。また、課税標準とは税率を適用するために課税物件を金額化又は数量化した金額又は数量をいう(通則法二条六号イ)。法二八条一項は、消費税の課税標準につき、課税資産の譲渡等の対価の額とし、課されるべき消費税額(いわゆる仮受消費税額)を含まないものと規定し、消費税につき申告納税方式を定める法四五条一項は、納税義務を負う事業者に、課税期間ごとに、その末日の翌日から二月以内に、その課税期間中に国内で行った課税資産の譲渡等に係る課税標準である金額の合計額を課税標準額と規定し(同項一号)、これに対する消費税額、仕入れに係る消費税額等の控除されるべき消費税の額などの事項を記載した申告書(確定申告書)を税務署長に提出すべき旨を命じている。この確定申告書に記載すべきものとされた事項からみれば、申告納税方式によって税額を確定する消費税においては、その確定申告書に、課税期間内における課税資産の譲渡等に係る対価の額の合計額を課税標準額として記載させ、これに消費税の税率を乗ずることにより、課税標準額に対する消費税額を算定しようとしているものと解されるから(法四五条一項二号)、前示の総額計算方式を採用していることは明らかである。

2  総額計算方式と課税構造との適合性

控訴人は、法四五条一項は、確定申告の手続について定めたものにすぎず、これを消費税の課税標準の計算方式の法的根拠とすることはできないこと、税制改革法一一条一項の規定のほか法二八条一項、通則法一五条二項七号の各規定の趣旨から単品ごと積上計算方式が消費税の課税構造に適合していること、したがって、仮に法四五条一項が総額計算方式の法的根拠となるとすれば、法二八条一項、通則法一五条二項七号及び税制改革法一一条と法四五条一項とが税額計算の方法につき矛盾した内容を導く余地があり、明確かつ一義的な課税を法定していないこととなるから、法四五条一項は租税法律主義、あるいはアムビギュイティの法理に違反すると主張する。

通則法一五条二項は、その各号列記の国税についての納税義務の成立時期を規定するものであって、消費税については、課税資産の譲渡等をした時と規定しているから、単品の場合であろうと多数資産の一括譲渡等の場合であろうと、原則的にその譲渡等の時に譲渡をした事業者に納税義務が成立すると解することができ、また、法二八条一項は、消費税の課税標準を課税資産等の譲渡の対価の額とする旨を規定するものであるから、単品の場合であろうと多数資産の一括譲渡等の場合であろうと、原則的に個々の譲渡取引の対象となった課税資産の対価の額が課税標準となるものと解される。しかしながら、前示のとおり、申告納税方式をとる消費税においては、確定申告書に記載されるべき右の課税標準である金額の合計額(課税標準額)に税率を乗じて消費税額を確定する方法がとられている。もともと、国税についての課税標準は、これを算定する基礎となる一定の期間(課税期間、通則法二条九号)ごとに算定されるべきものであり、消費税の場合は、法人においては事業年度をもって課税期間とされている(法一九条一項三号)。したがって、消費税の原則的な課税標準は個々の課税資産の譲渡等の対価の額であるとしても、課税期間ごとにこれを算定すべきものであって、法四五条一項は、確定申告書の記載事項に関する規定の形式をとって、課税期間における課税資産の譲渡等の対価の合計額をもって課税標準額とする旨を規定しているのである。したがって、法二八条の課税評価の規定とこれに続く二九条の規定から、法四五条一項二号が課税期間内に個々に成立した納税義務の総和をもって課税期間内の消費税額とすることはともかくとして、通則法一五条二項の規定及び法二八条一項の規定から直ちに、課税期間内の個々の課税資産の対価の額ごとに消費税率を乗じて消費税額を算定するという控訴人の主張する単品ごと積上計算方式による税額計算も可としているとまで解することはできない。

さらに、税制改革法一一条一項は、「事業者は、消費に広く薄く負担を求めるという消費税の性格にかんがみ、消費税を円滑かつ適正に転嫁するものとする。その際、事業者は、必要と認めるときは、取引の相手方である他の事業者又は消費者にその取引に課せられる消費税の額が明らかとなる措置を講ずるものとする。」と規定するものであるから、事業者に対して消費税を消費者に円滑かつ適正に転嫁すべき旨、必要と認める場合には取引の相手方等に消費税額を明らかにする措置を講ずべき旨を規定するものに過ぎず、消費税の基本的性格を示すものではあるが、現実の徴税のコストや納税義務者の事務処理上の難易その他の諸事情を勘案すると、この規定の趣旨から、消費税の税額算定方式として単品ごと積上計算方式が最も合理的であるとまでいえるものではない。課税標準額と税額の算定をどのように行うかは、右の消費税の性質のほか、消費税の課税構造、徴税手続の難易、納税手続の利便等の制度の運営全体を斟酌して決定されるべき立法政策上の問題である。もとより、その税額算定方式が明確性を欠き、多様な解釈が可能となって法的安定性を欠くに至ったものであれば、憲法八四条が規定する租税法律主義に違反し、租税法律主義から導き出される課税要件明確主義にも違反し、また、アムビギュイティの法理に違反すると解し得るが、前述のとおり、法四五条一項は、納税義務者の確定申告書の記載事項を規定するという形をとりつつ、消費税の課税標準額につき、明確に課税期間中に行った課税資産の譲渡等に係る課税標準である金額の合計額とし(同項一号)、右の合計額(課税標準額)に対して消費税額を算定すべきものと規定しているのであるから(同項二号)、総額計算方式を原則として採用するという規定の趣旨は明確であり、その立法政策のより合理性について批判の余地があるとしても、また、後述の規則二二条一項が規定する決済ごと積上計算方式が法四五条一項の許容する範囲のものであるかについても疑念があるとしても、法四五条自体に税額算定方式の不明確を理由とする租税法律主義の違反、課税要件明確主義の違反、アムビギュイティ法理の違反があるという控訴人の主張は理由がない。

3  規則二二条一項に規定する計算方式

右のような法四五条一項が規定する税額計算方式(総額計算方式)に対して、規則二二条一項に規定する決済ごと積上計算方式は、例外的特則的な計算方法となっている。規則二二条一項は、事業者が、課税資産の譲渡等に係る決済上受領すべき金額を当該課税資産の譲渡等の対価の額(本体価額)と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分して領収する場合において、当該消費税に相当する金額の一円未満の端数処理をしたときは、法四五条一項二号の課税標準額に対する消費税額の計算については、当該端数を処理した後の消費税額に相当する額を基礎として行うことができる旨を規定するものであるが、これは、例えばスーパーマーケットのような多数商品の販売業者等が、その複数商品の販売についての決済において受領すべき金額を商品の対価の額(本体価格)と消費税相当額とに区分して領収した場合において、消費税相当額の一円未満の端数処理を行ったときは、課税期間中の課税標準の金額の合計額(課税標準額)に税率を乗じて消費税額を算定するという法四五条一項の規定にかかわらず、端数処理をした後の消費税相当額を基礎として納付すべき消費税額を算定することを許容するものであり、このような決済ごと積上計算方式による場合は、原則として本体価格と区分して領収され、かつ、一円未満の端数処理が行われた消費税相当額については、その合算額をもって課税すべき消費税額とすることができるものと解される。税額の端数を切り上げることは、法定の税額以上の納付につながるから、一円未満の端数処理においては、一般には切捨てとならざるを得ないと解されるが、規則二二条一項に規定する右のような決済ごと積上計算法式は、決済ごとに消費税相当額の一円未満の端数の切り捨てを行うこととなるから、この合算額たる納付すべき消費税額は、法四五条一項に規定する総額計算方式によって消費税額を算定する場合に比べると、決済の回数が多くなるほど税額の減少をもたらすものであると考えることができる。このような規則二二条一項の立法趣旨は、法四五条一項の原則的方法である総額計算方式が必ずしも消費者に税の最終負担をさせた実態に即応した算定方式とはいえないのに対して、税負担の若干の減少の余地を認めつつ、消費者の最終負担の実態に即応して納税義務を課することを実現しようとするものと解され、消費税の課税構造、又は税制改革法一一条の趣旨に適うものであるということができる。

控訴人は、課税標準の計算のような実体要件は法六一条の規定する大蔵省令への委任事項に含まれず、また、国家行政組織法一二条四項の規定から、税の課税標準に関する実体的な事項などの納税者の権利を制限する内容を省令に委任することは許されないから、規則二二条一項の規定は、租税法律主義に違反して無効であり、さらに、同項の定める「決済上受領すべき金額」及び「区分して領収する」という要件は不明確であるから、そのことを理由としても、右の規定は、租税法律主義ひいては課税要件明確主義に違反し、アムビギュイティ法理にも違反して無効であり、単品ごと積上計算方式が適法と信頼した控訴人は保護されるべきであると主張する。

法六一条は、「この法律の規定による許可若しくは承認に関する申請又は書類の記載事項若しくは提出の手続その他この法律を実施するため必要な事項は、大蔵省令で定める。」とするところ、省令への委任立法を規定する国家行政組織法一二条四項は、法律の委任がなければ省令に「罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定」を設けることができないとするので、右の大蔵省令は同法条に違反するものであってはならないが、規則二二条一項が罰則を設けるものではないことは明らかであり、規則二二条一項に規定する前記決済ごと積上計算方式は、消費者への最終転嫁という目的を円滑、適正に行うために有益な方法であり、かつ、転嫁の実態の即応するものと解され、消費税の納税義務者に対して税負担を軽減する措置となるものであるから、法四五条一項と較べて新たに国民に義務を加重し、権利を制限する規定であるともいえない。したがって、規則二二条一項の規定は、課税標準の計算ないし課税額の計算を法四五条とは別異に定めるものであるが、徴税の便宜等や消費税の転嫁の実態により即応させるため、納税義務者にとってより有利かつ適正な計算方式を認めたものであるから、法六一条の委任の範囲外であるとか、国家行政組織法一二条四項の禁ずる事項を規定するものであるという主張は必ずしも当たらず、租税法律主義に違反すると解することはできない。

前記規則二二条一項は、決済ごと積上計算方式として、「課税資産の譲渡等に係る決済上受領すべき金額を課税資産の譲渡等の対価の額(本体価額)と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分して領収する場合において、当該消費税に相当する金額の一円未満の端数処理をしたとき」と規定するものであるが、複数の課税資産である商品を一括して譲渡し、一括して代金を受領する場合、消費税相当分を領収するについては、単品ごとにその対価に消費税率を乗じて合算して算出するか、一括した合計代金に消費税率を乗じて算出するかについて明確に規定していない(したがって、その限りでは規則二二条一項は曖昧な点がないとはいえない。)。しかしながら、取引通念上、複数商品の一括取引において、「決済上受領すべき金額」とは一括受領代金合計額を意味するものと考えられており、これを個々の商品ごとの「決済」として個々の商品の代金を受領しているものと観念されていない。したがって、例えば小売業者等において販売する複数商品の一括代金決済において、本体価格分の合計額とこれに対する消費税相当額分とを区分して領収し、消費税相当額の一円未満の端数処理をしたときは、その取引の実態に即して右規則二二条一項の適用があり、右の複数商品の一括代金決済において、観念的に単品ごとに本体価格分と消費税相当額分とを区分し、単品ごとに消費税相当額の一円未満の端数処理を行うことを認める趣旨のものではないことは明らかである。もっとも、個々の商品に外税方式で本体価格と消費税相当額とが分別表示され、その合計額が明示されて取引されている場合や、個々の商品に内税方式で定価及び本体価格が明示され、個々の消費税相当分が計算上明らかにされて取引されている場合(例えば書籍)に、複数の右商品を一括購入して代金を一括して本体価格の合計額と消費税相当額の合計額の総額を支払うときは、消費者は単品ごとに消費税を負担し、小売業者等も単品ごとに消費税を受領することになる(以下、この取引例の場合を「単品ごと計算取引」という。)から、その取引の実態に即して、結果として単品ごと積上計算方式により納入すべき消費税を算定することは右規則二二条一項の認める範囲といわざるを得ない。そして、そのように解する限り、規則二二条一項の要件が曖昧であるとか、不明確であるということはできない。前記認定(原判決「事実及び理由」欄の第二の一の4)のとおり、法が施行された平成元年四月一日当時において、国税当局から発出されていた旧通達は右のような規則二二条一項の解釈には何ら触れるところはなかったのであるが、甲第一七ないし第二〇号証、第五〇号証、乙第一号証の一ないし一一と弁論の全趣旨によれば、法の施行前である平成元年三月二〇日ごろ国税当局担当者の執筆に係る解説書(詳解消費税法)の発刊があり、右解説書には規則二二条一項に規定する前示一円未満の端数処理の要件たる「決済上受領すべき金額」が取引ごとに受領すべき金額を意味し、「区分して領収する」の意味についても、複数商品代を集計しこれに税率を乗じた金額を加算して領収する方法等により区分しているときを指すとする解説が行われていたことが認められ、同年九月二〇日に財団法人大蔵財務協会から刊行された「消費税質疑応答集」にも同様の解説がされていたこと、同年六月二〇日に株式会社税務経理協会から発行された「実務消費税法」には、消費税額の一円未満の端数処理は取引ごとに行い、商品ごとに端数処理をすることは許されず、一取引である請求書の合計金額に基づいてすることという趣旨の解説がされていたこと、平成元年一月二三日付け及び同年六月五日付けで財団法人大蔵財務協会から発刊された各「週間税のしるべ」にも同旨の解説記事が掲載されていたほか、月刊誌「税経通信」の平成元年の四月号、六月号及び八月号にも同旨の解説が掲載されており、税務研究会の発行に係る平成元年一月三〇日付け、同年三月二〇日付け及び同年七月三日付けの各「週間税務通信」にも同旨の解説記事が掲載されたことがそれぞれ認められる。右の解説等において、前述の単品ごと計算取引が現実に行われている場合について説明が十分にされているとはいえないが、少なくとも現実の単品ごと計算取引がされている事例を除いて、税務実務家にとっても、平成元年の時点において規則二二条一項の規定の趣旨が曖昧であり、不明確であったとはいえないものであったと推認される。

このようにして、規則二二条一項の規定する決済ごと積上計算方式の要件が曖昧であるとか、不明確であるということを理由とする控訴人の租税法律主義、課税要件明確主義、アムビギュイティ法理違反の主張は理由がない。もっとも、現実に単品ごと計算取引が行われている場合の消費税の積上計算方式をどうするかについては、規則二二条一項は明確にしていないが、その場合は、規則二二条一項に沿った決済ごと積上計算方式を選択しない限り、消費税法の法意及び規則二二条一項の法意からいえば、消費者に現実に転嫁した消費税相当分の合計額を基準として納税すべきこととなるものと解される。

二  単品ごと積上計算方式と規則二二条一項との適合性

1  控訴人は、本件店舗売上げについて採用した単品ごと積上計算方式により計算した消費税額の算定が、規則二二条一項の規定する決済ごと積上計算方式の要件を充たして適法であると主張するので判断する。

前記認定事実(原判決「事実及び理由」欄の第二の二の3)、甲第六ないし第八号証、第一六、第二三、第二四号証、第二七ないし第三九号証、第四三ないし第四九号証、第五一、第五四号証、第六一号証の一ないし三と証人Aの証言、控訴人代表者尋問の結果によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 控訴人においては、平成元年一月ごろからB会長、C社長、A専務取締役が中心となって新たに本邦に導入される消費税についての情報の収集を重ね、従前約三年間にわたって継続してきた低価格営業戦略を維持するために、消費税の導入の後も低価格を維持する方向で検討が進められ、法が施行された後には商品の消費税相当額を値引きして商品価格を据え置くこととするとの方針を決めた。その際には、主として商品の価格表示をどのようにするかという問題意識から、当初は内税方式での価格表示を実施しようとしたが、同年二月には内税方式の価格表示方法につき公正取引委員会指導課の指導を受け、A専務がこれを担当した。また、C社長は、消費税相当額の値引きが表示されるレジスターに変更するために、富士通株式会社東京南支店にその機能を備えた新規のレジスターの製作可能性を問い合わせ、そのための打ち合わせを開始した。しかし、同年三月初旬ごろ、日本チェーンストア協会から他のスーパーマーケットと歩調を合わせて外税方式によることが要望され、公正取引委員会からも消費税相当額の値引き等に関する指導があったので、最終的に各商品につき消費税相当額の値引きを実施するものの、商品の価格表示については、定価の一〇三分の三に相当する額(一円未満切捨て)を値引額と表示し、値引きの後の価格に消費税の税率一〇〇分の三を乗じた額(一円未満切捨て)を消費税相当額として上乗せすることを明示するものとし、原判決別紙一記載のとおりのチラシを本件店舗等の店内の複数箇所に掲示し、多数の宣伝広告等を通じて、消費税相当額の値引きにより、実質的には消費税相当額を消費者に負担させずに営業を続けると印象づける営業活動を行った。

(二) 一方、レジスターの製作を依頼されていた富士通株式会社東京南支店は、平成元年五月ごろ控訴人から正式の発注を受けたが、右会社は、控訴人の指示するやや複雑な価格設定の方法も、他の会社の採用する一般的な消費税の処理と同様のものと理解したために、六月には試作機を納入したが、控訴人の注文するレジスターの製作を直ちに開始することができず、従前の方式のものを平成元年九月ごろまでに本件店舗等の売場の数に応じた数量だけ納入したのみで、控訴人からのしばらく発注を見合わせるとの連絡により、前示の発注レジスターの製作を中断し、最終的に平成二年四月ごろまでに控訴人から新規製作の発注が取り消されてしまった。これらの事情により、平成元年から平成五年ごろまで、本件店舗等における販売の際に客に交付されるレシートは、原判決別紙二記載のとおりの書式のままであり、販売した各商品の個別価格とその合計額の表示はあるものの、これに対する消費税相当額の表示はなかった。

しかしながら、控訴人の経営する東北事業本部店舗においては、法の施行の当初から、他のスーパーマーケットの店舗の場合と同様に、外税方式による価格表示と、レシート上の販売表品の合計額に対する消費税相当額の表示がされ、規則二二条一項による決済ごと積上計算方式により、各事業年度の消費税額が算定されていた。

2  右の事実によれば、控訴人が本件店舗等で採用した商品の価格表示は、各商品につき税額の表示があるから一応外税方式の外観をとるものということができるが、原判決別紙一記載のとおり、本来定価の一〇三分の三の値引きをし、その値引きの後の価格に消費税の税率一〇〇分の三を乗じて当初の定価を復活させるものであり、しかも、店内の掲示された原判決別紙一記載のとおりのチラシには右の値引きと消費税相当額の上乗せの過程は省略する旨の注記があったのであるから、実質的には、内税方式の価格表示であったと認められる。

3  しかしながら、外税方式又は内税方式のいかんにかかわらず、規則二二条一項に規定する決済ごと積上計算方式による消費税額の算定を行うには、本体価格と消費税相当額とが区分されたうえで代金領収又は代金支払がされなければならないものであるところ、右の事実によれば、客が購入した各商品の代金支払の際に本件店舗等で発行するレシートには、何ら消費税相当額の表示はなく、また、本件店舗等の販売員と客の意識の上でも、店内掲示のチラシ等には値引きと消費税相当額の上積みの過程は省略するとの注記があったほどであるから、消費税相当額はすべて値引額と認識されていたと推認され、現実に販売又は購入した各商品の消費税相当額の合算額を明示的に認識し、確認する手段がないのであるから、本体価格と消費税相当額とが区分されて領収されたあるいは区分されて支払ったという認識を有していなかったと推認される(甲第五一号証と弁論の全趣旨によれば、本件店舗等でもタイムサービスや賞味期限の経過等により、一部の商品が更に値引きされていたことが認められるが、そのような場合においては、一層代金弁済の客観的評価としても、当事者の意識としても、前記の区分がされていたと認めることはできないというべきである。)から、前述の単品ごと計算取引が本件店舗等において現実にはされていたと認めることはできない。

4  控訴人は、店内の商品価格の表示又は店内に掲示されたチラシの記載により、消費税相当額が明示され、これを前提に代金決済が行われているから、単品ごとに消費税相当額が区分されて領収されていると主張するが、前示のとおり、代金決済の客観的評価の上でも、当事者の意識の上でも、本体価格と消費税相当額とが区分されて代金が領収され区分されて代金が支払われたという単品ごと計算取引がなされていたとは認められない。控訴人が主張するように単品ごとの消費税相当額が明示区分されて代金決済がされたのであれば、その領収した消費税額分の合算額をもって容易に納入する消費税額を算定することができる筈であるが、控訴人のした本件各申告における消費税額の算定手法は、そのような方法によるものではなく、総売上高から計算上算出される商品ごとの単品当たりの平均価格をもって単品の本体価格とし、これに税率を乗じ、単品ごとに一円未満の端数処理をした後の額を合算するという方法によっているのであり、このような平均的単品価格を用いて単品ごとの消費税相当額を算出するのは、まさに現実に区分されて領収されていなかったために現実に単品ごとの消費税相当額を合計して納税すべき消費税額を計算できなかったことに対応した処理であって、このような消費税額の算定方法をもって規則二二条一項の決済ごと積上計算方式の一態様に該当するということはできない。また規則二二条一項の規定が現実に行われている単品ごと計算取引について明確でないとしても、その実態のない取引について控訴人の主張するような観念的、形式的な単品ごと積上計算方式を容認しているものではないことは明らかであるから、仮にアンビギュイティの法理を適用しても、本件において控訴人の主張する計算方式によるべきことにはならない。

なお、控訴人は、単品ごと積上計算方式が規則二二条一項の適用を受けないとすれば、納税義務者が消費者から預かる消費税相当額よりも多額の消費税額を納めなければならないこととなって不合理であると主張する。しかしながら、決済ごと積上計算方式の適用を受ける場合には、事業者が納付する消費税額と消費者に転嫁される額とは一致するのに、控訴人は単品ごと計算取引でないものに単品ごとに消費税額を計算する方式をとり、消費者からより多数回にわたる端数処理をした減少した代金しか一括受領していなかったため、一取引一決済ごとの積上計算方式によるよりも多目の端数処理をした結果となったものであり、また、本件において、控訴人の主張する不合理は、規則二二条一項の適用を受け得べき決済処理をしないで、その適用を受けることなく原則的な総額計算方式の適用を受けたことによるものであって、自らの選択において招いた不利益をその納税義務者が負担するのは、必ずしも不合理とはいえない。したがって、控訴人のこの点の主張は失当である。

また、控訴人は、単品ごと積上計算方式に規則二二条一項の適用を認めないとすれば、消費者の税負担が増加することとなって不合理であるとも主張する。単品ごと積上計算法式においては、当然ながら消費税相当額の一円未満の端数処理を行う回数が多数回となり、したがって決済ごと積上計算方式に比べて合算した消費税額が減少することは、その計算方式の性質上当然であるが、取引の実態に即さない処理を前提に、その結果の当否を論じたり、規則二二条一項の適用の可否を論ずることは相当でない。

5  このようにして、本件各申告における消費税額の算定方式が規則二二条一項の適用を受け得るものとする控訴人の主張は理由がない。

三  信義則違反、平等原則違反、アムビギュイティの法理の違反の主張について

1  租税法規に適合する課税処分に対しても信義則の法理を適用することは可能であり、例えば、税務官庁又は税務職員から信頼の対象となる一定の公的見解を表示を受けた納税者が、これを信頼しその信頼に基づいて行動したにもかかわらず、右の表示に反する課税処分を受けたために、経済的不利益を被ったという場合などのように、納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分による課税の効力を否定して納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえる特別の事情がある場合には、右課税処分が信義則に違反することを理由に、これを取り消す余地があると解される(最高裁判所昭和六二年一〇月三〇日第三小法廷判決・裁判集民事一五二号九三頁)。

2  控訴人の信義則違反、平等原則違反、アムビギュイティの法理違反の主張は、まず第一に、法の施行直前である平成元年三月ごろ、東京国税局の担当職員が控訴人の本店を訪れ、控訴人側から商品の価格表示の方法、消費税額の算出方法、転嫁の方法等の説明を聞き、「御社の方針は違法とはいえませんね。」というコメントを表示し、これを信頼したとするものである。この点を供述する証人Aとその陳述書である甲第二七号証によれば、当時マスコミでも控訴人が法の施行後にも消費税額を消費者に転嫁せず、商品価格を従前どおり据え置く方針であることが報道されていたので、平成元年三月ごろ東京国税局の担当者二名が「実情を教えてほしい。」として控訴人の本店を訪問し、応対したA専務取締役から、前記認定の個々の商品につき消費税相当額の値引きをした後に消費税相当額を上乗せして当初定価を維持するという控訴人の価格表示方針について説明を受けたこと、それに対し、右の担当者らが「その方針は違法とはいえない。」とのコメントをしたので、A専務らは税務当局からも理解が得られたと考えて事情説明を終えたものであることが認められる。

A証人と甲第二七号証は、その際に控訴人側は消費税の確定申告において単品ごと積上計算法式を採用する予定であるとの説明までも行ったと供述する。しかしながら、前記認定事実と証人Aの証言、控訴人代表者尋問の結果によれば、その当時控訴人において消費税の納税の方法についての研究を行っていたのは、もと太陽神戸銀行の取締役でありその経理部長を経験していたB会長であったと認められ、A専務が法の施行前から単品ごと積上計算方式と決済ごと積上計算法式の異同等に関心を有していたとの証拠はなく、その当時から控訴人において単品ごと積上計算方式をもって確定申告をするとの方針が決まっていたと認めるべき証拠もない。むしろ、前記認定事実と証人Aの証言、控訴人代表者尋問の結果によれば、控訴人の役員らの最大の関心は、そのころ、商品の価格表示の方法について公正取引委員会指導課から指導を受けていた、消費税相当額の消費者への転嫁を行わずに低価格による販売戦略を維持しようとするところにあり、当時においては、控訴人の役員らが消費税の確定申告をどのようにするかについて税理士等に相談したこともなく、前記認定の商品の価格表示の方法に従い、富士通株式会社東京南支店に新しい仕様のレジスターの製作を注文したものの、右会社との調整が遅れ、平成元年中にはほぼ新規レジスター製作を断念し、平成二年には発注を取り消したことが認められる。

右認定事実によれば、平成元年三月当時においては、控訴人の関心は、同年四月からの法の施行を直前に控え、専ら控訴人の従来からの営業方針であった低価格営業をどのように維持するかにあったことは明らかであり、専務取締役であったAは、個々の商品についての消費税相当額の一円未満の端数を処理し、これらを合算した額をもって納入すべき消費税額とすることにより消費税の税負担の軽減を図るためには、本体価格と消費税相当額とを区分して代金を受領する必要があることなどの規則二二条一項に規定する決済ごと積上計算方式の適用要件については十分な理解を有していなかったと推認され、控訴人の他の役員も税理士に対する相談等を行っていなかったうえ、レジスター改良の処置も結局とられなかったものと認められる。そうだとすれば、平成元年三月当時、A専務がヒアリングために訪問した東京国税局の担当者に対して、消費税額の算定方式の一つとして単品ごと積上計算法式の内容を説明してその適法性に関する意見を求めたとは考えられず、右の点についての前記のような証人Aの証言と同旨の甲二七号証の陳述は採用することができない。結局、前記認定の「その方針は違法とはいえない。」との国税局担当者のコメントの表示は、当時控訴人側の最大の懸案であった商品の価格表示の方法に関する意見であったと推認するのが相当であり、もともと、商品価格中の消費税相当額の表示を内税とするか、外税とするかは、税額計算法式の選択とは直接的に関連するものではないから(前記認定のとおり、控訴人の採用した方法は、形式的には外税方式であるが、実質的には内税方式であると認められる。)、国税局の担当者による前記コメントが、消費税算定方式について一定の公式見解を控訴人に表示するものであったとは認められない。したがって、右のコメントの表示を理由に、本件各処分の信義則違反、平等原則違反又はアムビギュイティの法理違反をいう控訴人の主張は理由がない。

また、控訴人は、東京国税庁の職員は、平成二年三月ごろにも法人税の税務調査の目的で控訴人の本店を訪れているのに、控訴人が既にしていた単品ごと積上計算方式による消費税額の確定申告について、何らの指摘をせず、これを放置したまま、平成五年五月本件各処分をしたことも信義則に反すると主張する。法人税に関する税務調査を行う国税局職員が異なる分野の税についての調査を行わなかったこと、又は異なる分野の税について指摘をしなかったことが、信義則違反となるものではないから、この点の控訴人の主張は失当である。

さらに、控訴人は、平成五年四月の同様の税務調査の際にも、消費税額算定方式についての質疑応答があったにもかかわらず、国税局職員から何らの指摘がなかったことをもって信義則違反等の事由があると主張する。控訴人代表者尋問の結果、証人Aの証言と弁論の全趣旨によれば、その際に右国税局職員は、本件店舗等におけるレジスターの機能とレシートの表示方法を尋ね、レシートに消費税相当額の区分が表示されているか否かを確認したことが認められるから、控訴人においては、右国税局職員が規則二二条一項の要件の有無を問題にしていることは控訴人側においても理解し得たと考えられる。しかしながら、もともと右国税局職員は、税額算定方式について公式の見解を表示したというわけではないのであるから(控訴人もそのように主張するものではない。)、控訴人には信頼すべき対象たる公式見解の表示はなかったと認められる。右認定の事実関係に照らしても、控訴人には信義則の法理によって保護すべき信頼が発生していたとはいえない。

3  また、控訴人は、法成立の後の周知期間における税務当局の措置が不十分であるとし、この点をも信義則違反、平等原則違反の理由とする。

税制改革法一一条二項は、「国は、消費税の円滑かつ適正な転嫁に寄与するため、前項の規定を踏まえ、消費税の仕組み等の周知徹底を図る等必要な施策を講ずるものとする。」と規定し、また、同法一七条二項は、「国税当局においては、昭和六四年(平成元年)九月三〇日までは、消費税になじみの薄い我が国の現状を踏まえ、その執行に当たり、広報、相談及び指導を中心として弾力的運営を行うものとする。」と規定しているから、国税当局には、法施行に当たり、右の各規定に即して、消費税の仕組み等の周知徹底を図るべく、一定期間は広報、相談及び指導を中心としてその執行の弾力的運営を行うべき行政上の責務があると解することができ、周知義務の履行、広報、相談及び指導に関する国税当局の対応措置のいかんが、個々の国民の納税申告に影響を及ぼし、課税処分上の不利益を招いた一因となっている場合は、課税上の信義則違反をもたらす一要素となるものと解すべきである。

しかしながら、前記認定事実と甲第一七ないし第二〇号証号証によれば、控訴人は、法施行の前後ごろ、国税庁の刊行物である「消費税のあらまし」、大蔵省主税課が刊行した「消費税の解説」という文献、政府広報「くらしを築きます。新税制。」などを入手しており、公正取引委員会事務局の発行した「消費税と独占禁止法」というパンフレットをも目にしていたことが認められるところ、これらの刊行物の発刊は、国による前記周知義務による措置の一環であるということができる。また、前記認定のとおり、平成元年三月二〇日ごろには国税当局担当者の執筆に係る解説書(詳解消費税法)の発刊があり、同年九月二〇日に財団法人大蔵財務協会からは「消費税質疑応答集」が刊行され、財団法人大蔵財務協会から発刊されている「週間税のしるべ」にも消費税制度に対する周知のための解説記事が掲載されていたと認められ、その他の非政府団体の各種雑誌も消費税制度の各種紹介記事を掲載していたことが認められ、これらの紹介ないし解説記事が規則二二条一項の特例的税額算定方式の紹介ないし解説にまで及んでいたことは前記認定のとおりであるから、これらの事情を通観すると、社会的評価としても国の周知義務が著しく不十分であったとまではいえず、スーパーマーケット業者である控訴人に対する関係でも、単品ごと積上計算方式が控訴人の本件店舗等における取引について適用がないことに関して、直接的な行政指導がなかったからといって、国に控訴人に対する関係で平等原則違反、信義則違反が生ずるということはできない。

4  また、控訴人は、アンビギュイティの法理上、法規の内容が曖昧であり不明確である場合は、これを善意で誤解して行動した行為者に有利に解釈すべきであると主張する(慈悲ルール)。前記認定のとおり、法四五条一項の規定が消費税額の算定につき、課税期間中の課税標準である金額を合算して課税標準額とする総額計算方式を採用していること、規則二二条一項の規定が前記のとおりの要件を有する決済ごと積上計算方式を採用していることについては、必ずしも曖昧であるとか、不明確であるということはできないから、アンビギュイティの法理を適用すべき場合には当たらないというべきである。

5  このようにして、控訴人の信義則違反、アンビギュイティの法理の違反を理由とする主張はいずれも理由がない。

四  本件各更正について

1  以上のとおりであり、本件各更正について、控訴人の主張する課税標準額等及び消費税額の算定方法は理由がなく、本件各更正の課税標準額等及び税額の算定方法と算定額についてはこれを修正すべき事由はなく、その余の基礎となる数額についてはいずれも当事者間に争いがない(なお、控訴人は、平成四年三月二一日から平成五年三月二〇日までの課税期間に係る本件更正(四)のうち、納付すべき税額六〇三〇万六一九七円を超える部分についての取消しを求めているところ、控訴人が審査請求において本件更正(四)につき取消しを求めたのは納付すべき税額六〇三〇万六二〇〇円を超える部分であったから、納付すべき税額六〇三〇万六一九七円を超えて六〇三〇万六二〇〇円までの部分に対しては、控訴人は審査請求を求めることなく本件訴訟でその取消しを請求しているが、一つの更正処分について不服申立手続を経由している限り、その不服の理由、範囲にかかわらず、右の部分《差額三円部分》について、国税通則法一一五条一項に定める審査請求前置主義違反があるとはいえない。)。

2  よって、本件各更正に違法事由はなく、その取消しを請求する控訴人の主張は理由がない。

五  本件各賦課決定について

1  前記のとおり、本件更正(二)、(三)は適法であり、これによれば、前記認定の本件各賦課決定は、その額の算定においていずれも適正であると認められる。

2  控訴人の正当事由の主張について

控訴人は、当審において、本件賦課処分(二)、(三)に対しては、それぞれその計算の基礎となった事実につき、本件申告(二)、(三)の各計算の基礎とされなかったことについてはそれぞれ正当事由があると主張するが、その内容は、前記信義則違反の主張とアムビギュイティの法理違反の主張と同様である。

前記認定のとおり、本件各処分に関しては国に信義則違反と認めるべき事実はなく、国税当局に法施行の際の周知義務の違反があったと認めることはできないが、その理由として前述したところに照らすと、本件賦課処分(二)、(三)の計算の基礎となった事実が本件申告(二)、(三)の基礎とされなかったことにつき、控訴人にそれぞれ正当事由があると認めることはできない。また、本件各処分に関してアムビギュイティの法理違反の事実を認めることはできず、前示のとおりのその理由しに照らして、本件賦課処分(二)、(三)の計算の基礎となった事実が本件申告(二)、(三)の基礎とされなかったことにつき、控訴人にそれぞれ正当事由があると認めることはできない。したがって、この点についての控訴人の主張は理由がない。

3  よって、本件各賦課決定に違法事由はなく、その取消しを求める控訴人の本件請求は理由がない。

第四結論

以上によれば、控訴人の本件請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 鬼頭季郎 裁判官 慶田康男 裁判官 廣田民生)

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